読売新聞の記事によると、中小企業で職場のパワハラを巡る訴訟リスクに備えた保険の加入が急拡大しているそうです。

具体的には「雇用慣行賠償責任保険」という保険で、企業がパワハラやセクハラ行為があったとして従業員から訴えられ敗訴した場合の損害賠償や慰謝料、訴訟費用などを補填するものとなります。

保険料は企業規模に応じ、年間5万円から数十万円程度とのこと。

大手損保会社の今年3月末時点の契約件数は4年前に比べて倍になっているということで、これは明らかに今年4月から「パワハラ防止法」が中小企業にも適用されることになった影響と言えます。

さてパワハラ防止法は今年の4月から規模に関わらず全ての企業に適用されているわけですが、その受け止め方にはかなりの温度差があると思われます。

社労士と顧問契約をしていない中小零細企業ではそもそもパワハラ防止法自体を知らないということもあるでしょう。

または知っていても、まだ従業員への啓発活動を行っていなかったり、「うちは大丈夫だろう」と特に何の対策もとっていないということも多いのではないでしょうか。

まずは職場にパワハラやセクハラなどのハラスメント行為を発生させないための対策をとることが最優先です。

その上で、それでもハラスメント行為が発生してしまった時に備えて保険に加入するというのが筋でしょう。

私は独立してもう10年になりますが、一応今までお客様から発生したハラスメント行為に関するご相談を受けたことはありません。

しかし、今後も発生しないとは限りません。

経営者自身がハラスメント行為をしなくても、社員同士でハラスメント行為が起きてしまうということもあり得ます。

まずは何がハラスメントに該当するのかという定義付けをしっかりと共通認識にすることが大切です。

実際、世の中にはハラスメント研修が数多く存在していますし、当事務所でもクライアントの社内研修を実施しています。

パワハラで言うと、

・殴ったり、物を投げつけるという身体的な攻撃

・「バカ」「死ね」などと罵倒する精神的な攻撃

というのは分かりやすい典型的なパワハラ行為となりますが、大事なのは「パワハラとそうでないもの(適切な指導)との線引き」です。

これはスパッと分かりやすく線が引けるものではなく、マニュアルに落とし込むことができるようなものではありませんが、それでもある程度は「うちの会社ではこういう行為はパワハラに該当し、こういう行為は該当しない」という定義付けをすることはできます。

そうやってしっかりと定義付けをし、それでもパワハラ行為をしてしまった場合の懲戒等の対応についても就業規則やハラスメント規程などに明記し、「うちの会社は一切のハラスメント行為を認めない」という経営者の強い姿勢を示す必要があります。

それでも、ハラスメント行為が起きてしまい従業員から訴えられる可能性を考えて雇用慣行賠償責任保険でリスクヘッジをする。

ここまでできれば対策として十分ではないでしょうか。

繰り返しになりますが、ろくに対策を取らないで保険に入れば大丈夫という話ではありませんので、そこはお間違えなく。