12月10日に来年度の税制改正大綱が発表となりました。

100ページ程度のボリュームになり、私も専門家として毎年全ページに目を通しているのですが、う~ん、今回の改正は(も)小粒なものとなりましたね。

岸田内閣は「成長と分配の好循環の実現」を謳っており、今回の改正の目玉はいわゆる「賃上げ税制」となっています。

中小企業に絞ってその内容を説明しますが、まずはざっくりと従業員の給与が前年と比べて一定割合増加した場合には、一定額を法人税から控除できる制度と理解いただければと思います。

基本的には従業員の給与が前年と比べて1.5%以上増加した場合には、増加した金額の15%を法人税から控除することができます(その年の法人税の20%が上限。以下同じ)。

さらに、2.5%以上増加した場合には、控除率が19%上乗せされ、増加した金額の25%を法人税から控除することができます。

さらに、教育訓練費の額が前年よりも10%以上増加している場合には、さらに控除率が15%上乗せされることになります。

これにより、給与の額が2.5%以上増加し、さらに教育訓練費の額も10%以上増加していれば、給与の増加額の40%を法人税から控除できるという形になります。

なお、以前に「ここが変だよ、税制改正議論」(コチラ)で取り上げた際には賞与は加味しないという話になっていましたが、今回の大綱では賞与も加味できるようになっています。

ということで、「さあ税金を減らしてあげるインセンティブを用意したのだから、企業は頑張って賃上げしてくださいよ!」ということなのですが、だからといって積極的に賃上げが行わるかと

言うと、それはあまり期待できないのではないかと思われます。

何度も言っていますが給与は一度上げると簡単には下げられません。

また、給与を上げるとそれに連動して社会保険料の負担額も増えます。

現在、給与に対する社会保険料の負担割合は約30%であり、その半分である約15%は企業が負担する必要があります。

これが結構大きいのです。

別に私は賃上げを否定するわけではありません。

岸田内閣が謳っているように賃金が上がることで個人消費が拡大し、それによって企業も利益が出るようになり、さらに賃金が上がり・・・という「成長と分配の好循環」が実現できれば理想的だと思います。

ただ、税制を用意するだけで「よし!じゃあ賃上げしよう!」となる経営者はほぼいないと思います。

賃上げして税金が減るのはその年だけの話ですが、給料と社会保険料が増える分はずっと負担しないといけないわけですから、慎重にならざるを得ないでしょう。

私も顧問税理士としてクライアントに「賃上げ税制がありますから賃上げしましょう」とは言わないですね。

中小零細企業にとってはなだらかに定期昇給をしつつも、きちんと利益が出たら賞与で分配するというのが現実的なやり方で、それによって要件を満たせば賃上げ税制を活用すれば良いと思います(実際、クライアントの中でもこの制度を適用している会社が数社ありますが、この制度ありきではなく結果として要件を満たしたので適用したというものでした)。

ということで、今回の改正の目玉となっている賃上げ税制ですが、大企業は別にして中小零細企業にとっては効果は非常に限定的なものになると予想されます。

でも使えるのであれば上手に使いましょうね!