日本の伝統芸能の中でも最も親しみのあるのが「落語」です。

かくいう私も毎年必ず何回かは寄席に行っています。

同じ伝統芸能でも歌舞伎や能楽、文楽はちょっとハードルが高いですが、落語であれば割と気軽に行ける雰囲気があります。

さて、今回ご紹介する『ビジネスエリートがなぜか身につけている教養としての落語』ですが、本書の冒頭にこんな件(くだり)があります。

”吉田茂元首相が、選挙活動中にコートを着たままぶっきらぼうに演説をしている際に、「外套(がいとう)をとれ!」と聴衆から野次を飛ばされたとき、こう言い返しました。

「外套を着てやるから、街頭演説です」

(中略)

そんな彼が愛してやまなかったのが”落語”です。

彼の落語マニアっぷりは有名で、古今亭志ん生師匠(五代目)や桂文楽師匠(八代目)などを料亭にまで呼び、落語をきいていたほどです。

落語が彼の人間力、政治力に多大な影響を与えていたことは疑いようがありません。”

政治家は言葉が武器ですが、その言葉を磨くためにも落語は有効だと言えるエピソードです。

また、私は神社が好きですが、そこから入って日本の歴史や文化を学び、「日本って素晴らしい国だ!」と再認識しました。

同じように落語を通して日本の文化や価値観を学ぶことができるという点についても本書は分かりやすく解説してくれています。

さて、落語とは何なのか?

それを本書の著者である立川談慶さんの師匠である立川談志さんは「落語とは人間の業の肯定だ」と表現しました。

要は「人間とは所詮”どうしようもないもの”なのだ」ということですが、実際落語には沢山の”どうしようもない人”が登場します。

お金もないのに見栄っ張りな人や他人をうまく利用しようとして失敗する人などが面白おかしく語られますが、こういうことは現代にも通じるものですので、落語に親しんでいることで、ビジネスの世界で多少”どうしようもない人”に遭遇したとしてもイライラしたり振り回されにくくなる・・・かもしれません。

実は古典落語の噺の数は約300なんだそうです。

当然何度も寄席に行っていれば「あ、この噺、前にも聞いたことがある」となりますが、しかし落語家さんによって内容が微妙に変わったりします。

本書では歌舞伎との比較で分かりやすく説明されていますが、歌舞伎は演目の忠実な再現を目指すクラシックであり、落語は自己流にアレンジするジャズと対比することができます。

私はジャズ好きなのですが、そういう意味で落語に親しみを持てているのかもしれません。

寄席に行くと観客の平均年齢は高めで私ですら「若い方」という感じですが、もっと若者にも触れて欲しいと思います。

今は便利なことにYouTubeで無料で見ることもできますから、今まで全く落語に触れたことが無いという方は、この機会に触れてみてはいかがでしょうか?