私には農家をしている知り合いも多いのですが、おそらく農家の方にとって嫌なもののトップ5に入るであろうと思われるのが「雑草」です。
農作物を育てるのに必要な光や水や養分などを横取りする嫌な存在であり、「農業は雑草との戦い」などという言葉もあるそうです。
そんな雑草の生存戦略についてビジネス理論を交えながら解説したのが静岡大学教授であり農学博士である稲垣栄洋氏著『雑草という戦略』です。
まず、雑草というとコンクリートを突き破って生まれくるものもあり、また踏まれても踏まれても立ち上がってくる「雑草魂」という言葉もあるように、非常に強い存在であるというイメージがあるかと思います。
しかし、実際には非常に弱い植物であり、大きな木などとの戦いを巧みに避けながら生き残り続けているのだそうです。
「雑草が弱い植物だと!?」と農家の方から怒られそうですが、実際自然の世界は弱肉強食。
光、水、養分を取り合う熾烈な戦いで、戦いに敗れてしまうと自然界にセーフティネットはありません、あとは滅びるのみ。
だからこそ雑草はそんな厳しい環境で、勝ち目のない相手との戦いを徹底的に避け、種として生き延びるために進化してきたのです。
そう考えると、大企業との戦いを巧みに避けて生き残りを賭ける中小零細企業にとって雑草の戦略は何か学びになるのではないでしょうか?
本書の中でも非常に興味深かったのが、「攪乱適応戦略」です。
攪乱(かくらん)とは「かき乱れる」ことであり、環境がかみ乱され変化が起こることを言います。
この攪乱の程度を小、中、大に分けるとすると、大、すなわち大きな攪乱が起こると生息できる生物の種類はかなり少なくなってしまいます。
要は変化があまりにも大きいと、その変化に対応できる生物は限られてしまうからです。
では逆に小、すなわちあまり変化が起こらない状況だと生息できる生物の種類は多くなるのでしょうか?
実は変化が少ないと生息できる生物の種類は減ってしまうのだそうです。
というのも、変化が少ない安定した環境では単純に競争力勝負となり、強い種が弱い種を駆逐してしまうからなんだとか。
中程度のそれなりに攪乱が起きて不安定な環境の方が、単純な競争力ではなく、変化に対する適応力も求められるため、多くの種類の弱い生物がさまざまな戦略を駆使して生存できるようになるのです。
そう考えるとこのコロナによる環境の変化は中小零細企業にとっては一つのチャンスと言えます。
そんな雑草の攪乱に対する基本戦略は「たくさんの小さな種子」です。
何が起こるかわからない、どう変化するかわからない状況だと、「少ない大きな種子」はリスクが高くなります。
もちろん小さな種子になると1つ1つの種子の生存確率はかなり低くなります。
しかし、1万粒の種子をばら撒いて、そのうち1粒でも命をつなぐことができれば、その雑草にとっては成功です。
生き延びていきつつ、また新しい環境の変化に対応して成長の仕方を変えたり、サイズ自体を変えたりしながら次に命をつないでいきます。
これもまた中小零細企業にとって参考になる話しではないでしょうか。
1万とは言わないまでも、数多くの手を打ち、その多くは失敗するかもしれないけど、その中でうまくいくものがあれば、今度はそこに集中投資して成長していく。
別にライバルを駆逐しなくてもいいから自社が生きていける領域をしっかりと確保し、したたかに生きていくのが雑草たる中小零細企業の生き方と言えるでしょう。
私も「雑草魂」で生きていこうと思います。