たまに勉強会や交流会などで名刺交換をした際に、私が税理士だと分かると「いや~、私は本当に数字が苦手で。もう全部顧問税理士にお任せしてるんですよ~」とおっしゃられる経営者がいます。
断言しますが、経営者にとって経営の数字をきちんと理解する力は必須です。
確かに試算表や決算書を見ると日常生活ではお目にかからないような言葉がオンパレードです。
貸倒引当金、減価償却費、売上原価、繰延資産、株主資本などなど。
そこに数字が羅列されているので、「もう何が何やら」という状態をもって「数字が苦手」という表現になっているのでしょう。
しかし、だからと言ってこれらの数字と向き合うことを放棄してしまうと、いつまで経っても自社が儲かっているのか、お金はちゃんと回っているのか、そして例えばどちらも上手くいっていないとして、どこをどう改善したらいいのか、といったことがさっぱり分かりません。
例えば「いくらの売上があれば利益がトントンになるのか?」を示す数字として「損益分岐点売上」というものがあります。
そしてこれは「固定費÷限界利益率」によって求めることができます。
ここで「損益分岐点?固定費?限界利益率?あー難しい、やっぱり数字は苦手!」と思考停止してしまうようでは経営者失格です。
ここでは用語の説明は割愛しますが、これらの用語の定義さえ理解できれば使っているのは「割り算」です。
「数字が苦手」と言いますが、会計や税務の世界で使われるのは「四則演算」すなわち「足し算、引き算、掛け算、割り算」です。
別に微分積分を使えと言っているわけではありません。
「数学」ではなく小学校の「算数」レベルです。
そもそも私も数学と理科は超苦手で、大学入試でも「英語、国語、社会」が試験科目の学部しか受験できませんでした。
それでも税理士の仕事をするのに全然問題ありません。
そんな私だからこそあえて「経営者が数字が苦手というのは単なる逃げ」と言わせていただきます。
会計の数字というのは会社にとって経営状況を表す指標であり、例えるならば飛行機のコックピットにある計器と言えます。
どこを飛んでいるのか、高度はどれぐらいか、時速何キロか、など機長は常に計器をチェックしながら高度や速度などを調整していくと思いますが、会社を飛行機、社長を機長と置き換えると「数字が苦手」ということは、これらの計器を全く見ずに勘と経験と度胸で飛行機を飛ばしているようなものです。
そんな飛行機に乗りたいと思うでしょうか?私は御免です。
これらの計器に現れる数値をチェックしたり分析したりする「サポート役」として顧問税理士を活用するというのは全然アリです。
せっかく月額いくらという顧問料を支払っているのですから、しっかりと活用しましょう。
ただあくまでも顧問税理士はサポート役、副機長であって機長ではありません。
最終的には経営者自らがそれらの数値の意味をきちんと理解し、どんな手を打っていくのかを考え、決断していく必要があります。
ここまでお読みいただければ分かるかと思いますが、私はクライアントの社長さんには「私は数字が苦手だから」とは言わせません。
「数字のことなんて絶対に勉強したくない。自分はあくまでも勘と経験と度胸で会社を経営していく。数字を扱うのが税理士の仕事だ。」というお考えの方とは残念ながら仕事のお付き合いはできないでしょう。
ただ、「頑張って自分で勉強しなさい」とは言いません。
その会社にとって特に重要な指標、数値は何で、それはどうやって求めるのか、そしてそれはどういう意味を持つのかなどきちんと理解できるようにご説明します。
そうやって数字を嫌いにならずに、むしろ逆に好きになって、数字を経営に活かしていただきたいと思います。