たまに勉強会や交流会などで名刺交換をした際に、私が税理士だと分かると「うちの税理士は調査に入られた時に全然こっちの味方になってくれなくてガッツリ税金持っていかれたんだよ!」と不満をぶちまけられることがあります。

どれぐらいの割合なのかは分かりませんが、どうやら税務調査に入られたら調査官の主張を全て認め、場合によっては調査官と一緒になって「社長、そんな領収書を落としたらダメだよ!」と注意する税理士もいるようです。

では私の税務調査に対するスタンスはどうなのか?

「納税者の正当な権利を守るためには戦うことを辞さない」

一言で言えばそんなスタンスとなります。

 

税務調査では「この支出は本当にきちんと経費として落とせるものなのか?(事業のための支出なのか)」とか「このお給料は適正な金額なのか?(勤務実態のない親族に多額の給料を支払っていないか)」などが論点として出てきます。

そして調査官によっては本来ならば正当な経費に対して「いや、これは経費として認めない」とか適正なお給料なのに「いや、勤務内容に対して高過ぎる」という主張をしてきます。

 

これは実際にその調査官の中に妥当なラインという何らかのモノサシを持っていてそれに基づいて判断しているというケースもあれば「とりあえず主張して通れば(納税者が認めれば)ラッキー」ぐらいの感覚で言ってくるというケースもあったりします。

 

ただ何であれそれが経費として妥当なものだったり勤務実態に即した妥当な金額だったりした場合には、それはきちんと主張する、「いや、調査官、そこは譲れません。なぜならばかくかくしかじかだからです」というのが私が定義する「納税者の正当な権利を守るために戦いを辞さない」という意味となります。

この際、「かくかくしかじか」の部分には例えばそれがどのような内容の経費なのか、とか、具体的な勤務実態はどうなっているのか、という部分の説明(や証拠資料の提示)もあれば、それを補完するような判例の明示など様々です。

法律の世界の話ですから事実だけでなく、法律的裏付けは必須となります。

そういう意味では税務調査というのは我々専門家の腕の見せ所とも言えます。

 

ところで、「納税者の正当な権利を守るためには戦うことを辞さない」というのは限定的な表現となっています。

「納税者の正当な権利を守るために」ということは「納税者の正当な権利ではないもの」を守るために戦うことはしないという意味です。

早い話が本来なら明確に経費にならないもとを経費にしていたとか、実際には全く勤務実態がないのに税金を少なくするために親族にお給料を支払っていた、などの「それは法律上認められないよね」というものを指摘されたケースでも戦うのは愚かだという話です。

 

例えば単なる家族の食事代を交際費として落とすというのは明らかにアウトですが、これを指摘されて「いや、調査官、そこは譲れません」と言っても仕方の無い話です。それは全く納税者の正当な権利ではないからです。

 

※もちろんこの場合「認定賞与ではなく貸付金で」という交渉をする余地はありますし、ここでは書きませんが、そんな中でもダメージを最小限に抑えるための交渉方法は色々とあります。

 

なのでここで戦わなかったからと言って「うちの税理士は税務署の味方をする!」と怒るのは筋違いでしょう。

 

たまにこういう部分も含めて「全面的に税務署と戦います!」とアピールしている”超武闘派”の税理士をみかけることがありますが、それが望ましいスタンスなのかは疑問です。

一見すると納税者を守る心強い存在のように見えますが、実際には、そういう部分も認めない、聞く耳を持たない、という対応をされると調査官も人間ですから「だったらこっちも徹底的にやってやるよ!」と態度を硬化させてしまいます。

100%アウトのものだけでなく、それまでは論点にしていなかった「80~90%ぐらいアウト(ほとんどアウト)」のものまで否認し始めたりして事態がややこしくなってしまいます。

 

こうやって泥沼化していいことは何もありません。

税務調査は何もない、すなわち申告是認となるのが理想ですが、ダメなものはダメと素直に認めてさっさと終わらせる潔さも必要です。

そこを我々が頑張り過ぎて話をややこしくしたり、結果として傷口を深くするようでは専門家として本末転倒です。

 

「納税者の正当な権利はしっかりと守りつつ、ソフトランディングを目指す」

それが真にクライアントに貢献する税理士の姿と思うのですがいかがでしょうか?