前回「悩める会計事務所職員の養成」というタイトルで、会計事務所が職員の募集をかけてもなかなか人が集まらないとか、せっかく採用できてもすぐ辞めてしまうといったような悩みをかかえているのは所長税理士も含めた会計事務所側のコミュニケーション方法に要因の一つがあるのではないかというお話をしました。
特に外的コントロールの達人が揃っていると「批判する」「責める」「罰する」「ガミガミ言う」などの人間関係を破壊する7つの習慣を使いまくりで、そりゃそんな職場に愛着を持って働きたいと思うような奇特な人はいないでしょう。
今回はそれとは別に税理士業界から人材が流出してしまうもう一つの理由についてお話ししたいと思います。
それは『顧問料の低料金化』です。
平成14年の税理士報酬規定の撤廃により、顧問料の自由化が進み、熾烈な価格競争が繰り広げられています。
中には低価格を武器にクライアントを増やしている事務所もあります。
さて、一般的に会計事務所の労働分配率は30%前後と言われています。
月額顧問料の平均を仮に2万円とすると30件の担当を持つとその担当者の稼ぎ高は2万円×30件=60万円となります。
労働分配率を30%とすると60万円×30%=18万円がお給料の相場ラインとなります。
これではさすがに足りない、25万円は欲しいとなると逆算すると25万円÷30%=約83万円の稼ぎ高が必要となります。
2万円で割ると約42件の担当を持つ必要があるという計算になります。
42件も担当を持つというのは結構大変です。
クライアントとの打ち合わせもありますし、記帳代行しているのであれば担当者が記帳処理を行うという場合もあるでしょうし、決算月には決算業務も行わなければなりません。
その他、所内での会議や打ち合わせもあるでしょうし、財務分析、納税予想などやるべき業務は沢山あります。
しかもそんなに担当を持っている割にお給料は25万円なのです。
忙しい割にはそんなにお給料を貰えるわけではない。
しかも、そんなに忙しいと税理士を目指していたとしても勉強時間を確保するのは至難の業です。
働けど働けど生活は楽にならず、しかも税理士になるのも難しそう。
そんな明るい未来が描けない中で業界を去っていく人も結構いるのではないでしょうか。
これでさらに所長税理士が外的コントロールの使い手だったらなおさらです。
その一方でそんな会計事務所と顧問契約を結んだ側としてはどうでしょうか。
同じ払うなら安いに越したことはありません。
しかし、顧問料が低いことがデメリットになっているケースも多いのです。
上記の通り、顧問料が低いと事務所として収益を確保するためには職員に多くの担当を持たせなくてはなりません。
そして担当を多く持てば持つほど1件当たりにかけられる労力は薄まります。
よく低料金で「質問してもレスポンスが悪い」と不満を漏らしている話を聞きますが、そういう事情だからある意味仕方の無いことなのです。
また同じようによく聞く不満として「担当者がしょっちゅう変わる」というものもありますが、これは前述の通り、明るい未来を描けずに退職する人が多いからです。
事務所によっては毎月担当者が変わるなんて話も聞きますが、そんなにしょっちゅう変わられるとクライアントの側も大変です。
会社のお金の流れや経理方法などまたイチから説明しないとなりませんし、ちゃんと引き継ぎされているのか不安ですし、頼んでいた仕事はどこまでやってくれているのかよく分かりませんし、今度の担当者もすぐ辞めてしまうのであれば深い関係を築くのもバカらしいですし。
ということで『顧問料の低料金化』というのはクライアントにとっても会計事務所の職員にとってもいいことは一つもないのです。
当然私は低料金でお引き受けはしていません。
たまに「今の税理士よりも顧問料安くなるならお願いしたい」というご相談を受けることもありますが、そのように料金ありき、とにかく安くしたい、というお話しは全てお断りさせていただいています。
それで仮に顧問契約を結んだとしてもお互いにいい話にはならないという確信があるからです。
税理士を上手に活用して経営を良くしたい、と本当にお考えなのであればケチっちゃダメですよ。