先日Facebookに「もう年末調整制度はやめませんか?」という問題提起の投稿をしたところ、結構な反響がありましたので改めてこちらにも投稿したいと思います。
毎年この時期になると税務署から各事業所に年末調整の分厚い封筒が届き、いよいよ年末調整の準備へと入っていきます。
年末調整という制度は昭和22年にスタートした大変歴史のあるもので、私がこの業界に入った約20年前から今に至るまで当たり前のように存在しています。
課税庁側も企業もサラリーマンも税理士も「年末調整をして当たり前」となっていますが、私はずっと疑問に思っていました。
「なぜ会社が大きな事務負担をしてまでわざわざ社員の税金計算をしなければならないのか」
年末調整というのは、毎月給与を支給する際に概算の所得税を天引きしておき、年末の最後の給与の際に最終的な税金の計算を行い、概算で天引きしていた分を精算する制度となります。
基本的には毎月天引きする際にちょっと多めに計算しているので最終計算すると天引きしすぎということで差額分が還付、つまり戻ってくるということでサラリーマンとしてはちょっと嬉しいイベントと言えるかもしれません。
しかし、会社側としては社員から年末調整に必要な書類を回収し、給与計算や冬の賞与の計算などと並行して年末調整の計算を行わなければならず、相当な事務負担となります。
しかも完璧な状態で書類を提出してくれればいいですが、書類が不足していたり、申告書の記載に不備があったり、例えば前職の源泉徴収票をもらっていないのでこれから前職に連絡して発行してもらうといった具合に、全ての書類が揃うまで何度もやり取りを行い、手間暇がかかりストレスもかかるものとなっています。
なぜこんな大変な思いをしてまで、会社が社員の税金計算をしなければならないのでしょうか?
「法律で定められいるから。以上」と言ってしまえばそれまでですが、昭和22年に年末調整制度がスタートした際の理由は「税務職員の不足」というものでした。
要は「税務署の職員が少なくてサラリーマン全員に確定申告されても対応し切れないから、会社の方で代わりに計算してね」ということです。
当然当時はまだ紙での申告でしたから、確かにサラリーマン全員が確定申告をすれば税務署側も対応し切れなかったでしょうし、サラリーマンとしてもわざわざ税務署に行くのは面倒で会社がやってくれれば便利ということで、会社はともかく税務署とサラリーマンの思惑は一致していたと言えます。
そんな年末調整制度ですがスタートから70年以上が経ち、所得税の複雑化により、さらに煩雑な作業となってしまいました。
会社に提出する申告書は最大で3枚となり、生命保険料控除は新とか旧とか種類が沢山になりましたし、配偶者控除を受けようとするときにどこに何を書けばいいのか分かる人なんていないのではないでしょうか?
ここまで複雑怪奇になってしまったことをこれからも会社に負担させるのが良いことなのでしょうか?
よく日本人の生産性は低いなんて聞きますが、年末調整制度に代表されるように会社がやらなければならない事務作業が多すぎることも一因なのではないかと思われます。
昭和22年の紙の時代には「税務職員の不足で」という理由が成立していましたが、デジタル化が進んだ現代においてはそれも理由にはならないのではないでしょうか。
すでにPCやスマートフォンなどから申告できる環境は整備されつつあるわけですから、やる気になればできますよね?
また、別の観点から言うと、これだけ個人情報の保護について言われている時代に、どんな生命保険に加入しているのか、扶養家族の所得はどれぐらいなのか、障がいを持った家族はいるのか、住宅ローンの残高はいくらあるのかなどといったセンシティブな個人情報を会社に開示しないといけないという仕組みも時代錯誤なものだと思います。
そういうことを会社に知られたくないので、わざわざ確定申告している人もいるようですから、そういう観点でも考えていくべきです。
現在国はデジタル化を進め、またマイナンバーカードの普及率を高めようとしていますが、そのためにも効果的なのは年末調整制度の廃止だと思います。
とは言っても現在の複雑怪奇な内容のままでオンライン化をしても混乱が生じるだけです。
まずは内容を整備してシンプルなものにすること。
その上で年末調整制度を廃止し、簡単に確定申告ができるようにすること。
もう70年以上も経っているわけですから、そろそろ抜本的な改革をして欲しいと切に願うばかりです。