大塚家具の大塚久美子社長が12月1日付けで代表取締役を辞任するという発表がありました。
”大塚久美子社長が来期の黒字化に向けて道筋がつきつつあることから、過去の業績についての責任を明確にする意味で申し出たという”
とのことですが、同日発表した2021年4月期の業績予想は
売上高304億2000万円、
営業利益26億円の赤字、
当期純利益28億9000万円の赤字
ということで、今期これだけの赤字予想なのに「来期の黒字化に向けて道筋がつきつつある」というのはちょっと無理やりな気もするのですがどうなんでしょうねぇ。
それはさておき、大塚家具と言えば、現社長の久美子氏とその父親であり創業者である勝久氏の親子喧嘩の末に、勝久氏が会社を出ていく形となったお家騒動でも有名な会社です。
父親の勝久氏は「結婚後のまとめ買い」需要を取り込み、店員が顧客について回る接客スタイルで売上を伸ばしました。
それに対して久美子氏は勝久氏の接客スタイルは「利用客の心理的な負担になり、客足を遠のかせる」と否定し、「一人でも入りやすく、見やすい、気軽に入れる店作り」を目指し、店舗にカジュアルな雰囲気を施して積極的な接客を控えるスタイルを取り入れました。
私のような人間にとってはずっと店員が張り付くスタイルよりはある程度泳がせてくれるスタイルの方がありがたいので、この久美子氏の考え自体には共感する部分があります。
ただ、扱う商品も高級品路線からお値打ち商品路線へとシフトしてしまったことによってニトリやイケアといったライバルがひしめく土俵に乗ってしまい、業績は悪化し、一時は「身売りするのでは」と報じられる有様に(お家騒動でブランドイメージが著しく悪くなったことも大きな要因です)。
最終的にはヤマダ電機の傘下に入ることとなり、再建をヤマダ電機に託す形で久美子氏が会社を去ることとなりました。
我々中小零細企業が教訓とすべきは「ポジショニング」つまり、「どの土俵に乗るか」です。
久美子氏は、ニトリやイケアといった強力なライバルがひしめく土俵に乗ってしまったために厳しい戦いを余儀なくされてしまいました。
私の場合、大手の税理士事務所と同じ土俵に乗っても、資金力やマンパワーで圧倒的に不利ですので得策とは言えません。
やはりそういう強いライバルがいる土俵を避けて、自分が勝てる土俵に乗る必要があると言えます。
そういう意味で久美子氏の高級品路線からお値打ち商品路線への戦略変更は結果として失敗だったということになります。
世間の大多数のイメージは「父親の高級品路線で上手くいっていたのを、娘の久美子氏がダメにしてしまった」というものかもしれません。
しかし実は、父・勝久氏の高級品路線が上手くいっていたのも2001年までのことで、その後業績は低迷していました。
そこで久美子氏がその業績低迷を受けて社長に就任し、経営の立て直しを図ったという経緯があります。
もしも別の戦略を描きそれが上手くいっていれば「父・勝久氏の通用しなくなりつつある過去の成功体験から華麗に路線変更に成功した英雄」という評価になっていたことでしょう。
お家騒動以降、ネット上で久美子氏のことを「経営者の器ではない」と批判する声を目にすることも多かったのですが、そのまま勝久氏の路線で頑張っていたとしてもジリ貧状態となっていた可能性もあるので、そう考えると久美子氏だけ批判されるというのも理不尽なような気がしなくもありません。
それはさておき、託されたヤマダ電機が今後どのような戦略を取り、そしてそれによって業績が回復するのかどうか注目したいと思います。