よく銀行員による横領事件をニュースで見かけますが、残念なことに報道されないだけで中小零細企業の現場でもたびたび起こっています。

多いパターンはもう何年も勤務している大ベテランの経理担当者を”全面的に信頼して”通帳や印鑑の管理をさせていたところ、実は長年に渡り何千万単位で横領されていた、というものです。

しかもそれが発覚した際にその横領していた経理担当者が自殺してしまい、非常に後味の悪い結果になってしまうことも少なくありません。

まずははっきりと言っておきます。

社員が誰のチェックも受けずに会社のお金を自由にできる状況にしてしまうのは経営者の怠慢です。

その人の人柄や人間性を信頼するのはもちろんOKですが、だからといって通帳や印鑑を預けて管理を全面的に任せてしまってはいけません。

その人がどんなにしっかりとした真面目な人だとしても、例えば家族が重たい病気になってしまい多額の治療費が必要になった際に、「バレずに会社のお金を使うことができる」状況であれば「出来心」が芽生えてしまい、ついつい会社のお金に手を伸ばしてしまうかもしれません。

しかし、しっかりとチェックするなど不正を防止できる体制が整っていれば、出来心は芽生えないでしょうし、実際に会社のお金に手をつけることもしないでしょう。

ということは、社員を信頼しつつも不正を防止するためにしっかりとしたチェック体制を作ることは、大事な社員を犯罪者にしないための経営者の大事な責務であり、それを果たさないことは怠慢だということになるのです。

よって「俺は社員のことを信頼しているから通帳や印鑑は全部預けているんだ」という言葉はカッコいいようで、「俺はダメ経営者だ」と言っているようなもの。

 

と、今回はいつになく厳しい表現になっていますが、というのも、社員による横領事件が発生したときに「税理士事務所は何を見ていたんだ!」と訴えてくるケースも多いからです。

「税理士事務所は毎月帳簿内容を確認しているんだから、不正に気付いて然るべきである。それに気付かなかったということは職務を全うしていないのだから、顧問料を返せ」という主張です。

まず、税理士事務所が行う帳簿内容の確認というのは不正発見を目的とした犯罪捜査ではありません。

「この銀行口座からの出金は実は経理担当者の横領なんじゃないか?」みたいに疑っていたらキリがありません。

もちろん税理士事務所の担当者と経理担当者が結託して不正を働いていたらそれは大問題ですが、そうでない限り税理士事務所に不正発見を期待するのはそもそもお門違いなわけです。

さらに言うと、やはり結局は経営者本人の職務怠慢を棚に上げて税理士事務所のせいにしようという責任転嫁だと言わざるを得ず、自分で責任を取れないということは、厳しいようですが経営者失格です。

 

私のお客様や過去勤務時代に担当させていただいたお客様でこのような横領事件が発生したことはありませんが、長年この業界にいると、結構この手の話を聞きます。

社員が不正を働けないような仕組み・体制を作るということは社員を信頼していないという意味ではありません。

社員を信頼しているからこそ、その信頼している社員を犯罪者にしないためにも、厳格な仕組みを作り運用することが経営者の職務と言えます。