先日同友会主催の講座に『捨てられる銀行』の著者である橋本卓典さんが講師でいらっしゃいました。

この『捨てられる銀行』は金融検査マニュアルや信用保証協会の存在により、顧客の方を見ず目利き力を失った銀行は、これからどんどん見捨てられますよ、と警鐘を鳴らした話題作で私も昨年非常に興味深く読んでいました。

その著者である橋本さんが講師で、テーマが「今日の金融政策と地域金融改革」というタイトルでしたので、さぞかし銀行のことについて語るのだろうと思っていたところが、さにあらず!

冒頭いきなり「今日こういうタイトルになってますが、全然そんな話ししませんので」とおっしゃる橋本さん(笑)。

もちろん銀行のこともお話しになったのですが、じゃあどんな話をしたのかと言うと「計測できない世界の生き方」といった内容でした。

「計測できる」ということは数値化できるということです。

逆に「計測できない」ということは数値化できないということです。

橋本さんは広島東洋カープのファンということでセカンドの菊池選手を例に挙げていましたが、菊池選手はバッターとしては並の打率です(今年の打率は2割3分)。

しかし菊池選手の真骨頂は「忍者」と言われるぐらいの守備範囲の広さで、それゆえ非常に高い評価を得ている選手です。

さて、計測できる部分でいうと打率はそこそこです。

その一方守備力では高い評価を得ていますが、「菊池選手の活躍によって具体的に何点の失点を防ぐことができたのか」は計測できません。

でも菊池選手は高い評価を得ています。

ということはこの世界は「計測できるもの」と「計測できないもの」の両方によって成立しており、「計測できるもの」だけで物事の価値を決めてしまうのは正しくない、ということになります。

例えば野球の場合はナインを鼓舞するリーダーシップとか負けている試合でもムードメーカーになる明るさとか、逆に若手中心のチームで落ち着きを与えるベテランとか、こういう部分も「計測できない世界」となりますが、でもこういう選手は多少成績が悪くてもファンから「チームにいて欲しい!」と思われる存在です。

と、前置きが長くなりましたが、企業もこの「計測できない世界」を重視すべき時代になった、というのが橋本さんの主張です。

特に面白いと感じた発言が「目に見える商品で自社を語るのをやめる」というもの。

例えば「トヨタと言えば?」と聞かれたら「車」と答えたくなりますが、若者の車離れや将来の自動運転化を考えると、それでは事業が立ち行かなくなります。

そうではなく「交通インフラを担う(なんなら主導権を握る)」と定義付ければ、事業の可能性は広がります。

また、講演会でも紹介されていた『トヨタはなぜ強いのか』という本には「トヨタの真の強さは目に見えない『思いやりの受け渡し』だ」と書かれているそうですが、これぞまさに計測できない世界です。

計測できない世界とは言わば「共感の世界」であり、よってこれからは共感の時代になる。

そして共感の時代に求められるのは「超パーソナライズ」である。

要は「40代男性」とか「30代女性」のような括りではなく、ピンポイントでの「〇〇さん」のための商品・サービスの提供が求められていくだろうというのが結論でした。

こういうきめ細かいサービスをするのは大企業よりもむしろ中小企業の方が向いているから、これからは規模が小さい方が顧客との関係性を築き、選ばれる存在になるのではないでしょうか、というメッセージをいただきました。

それにしても共同通信社の記者で金融庁を担当されている方なのに、話題がシュレディンガーの猫や量子力学、『学習する組織』、ティール組織、ネットプロモーションスコアなど非常に多岐に渡り大変面白かったです。

税理士も今後AIに仕事を奪われて廃れていくどころか、超パーソナライズすることでめちゃくちゃ活躍の場が生まれると思うとワクワクしますね。

会計というのは「計測できる世界」を表わす代表格みたいなものですが、これと「計測できない世界」をしっかりと見ることができる税理士なんて面白いじゃありませんか。